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東京地方裁判所 昭和40年(ヨ)2219号 決定 1965年12月15日

申請人 宮内惣一郎 外一一名

被申請人 第二平和交通株式会社

主文

1  被申請人は、

申請人宮内に対し金五〇、〇五九円

同  石川に対し金五二、三三七円

同  弦巻に対し金五一、五七六円

同  諏訪に対し金二三、六四四円

同  鈴木に対し金二四、二五〇円

同  大野に対し金二九、四三六円

同  水落に対し金一四、三〇六円

同  山田に対し金二六、四八八円

同  小野に対し金二四、六三一円

同  田丸に対し金三三、七二七円

同  北沢に対し金三一、五四四円

同  滝沢に対し金四一、六一四円

を各仮に支払え。

2  申請費用は被申請人の負担とする。

(注、無保証)

理由

第一、申請の趣旨と被保全権利

昭和四〇年六月二一日以降、申請人宮内、石川、弦巻については同年一〇月三日まで、その他の申請人については同年九月二〇日までの賃金中の各未払分の仮払を受けるため、主文同旨の裁判を求める。

第二、争のない事実

一、1 被申請人(以下「会社」という。)は、もと和協交通株式会社と称し、昭和四〇年(以下「昭和四〇年」の記載を省く。)六月三日三恵交通株式会社(以下「三恵」という。)を吸収合併し、六月一四日現商号に変更したもので、江戸川区小岩及び平井に各営業所を有し、タクシー業を営むものである。

2 申請人らは、いずれも右合併により三恵から引続き会社に雇傭された従業員(タクシー運転手)であり、かつ、従業員らをもつて組織される三恵交通労働組合(以下「組合」という。)の組合員(申請人宮内、石川、弦巻はそれぞれ組合執行委員長、副委員長、書記長、申請人諏訪、大野、山田、田丸、北沢はいずれも執行委員)である。

二、会社は、(1)申請人全員に対し、六月一二日付通告書をもつて、懲戒委員会の議決があるまでの出勤停止(以下「第一次懲戒」という。)、七月一〇日付通告書をもつて、七月七日以降二週間の出勤停止(以下「第二次懲戒」という。)、七月一九日付告示をもつて無期停職(以下「第三次懲戒」という。)の各懲戒処分を通告し、(2)さらに、九月三日付通告書をもつて、申請人全員に対し第三次懲戒の終結を通告するとともに、申請人宮内、石川、弦巻、鈴木、大野、小野、北沢(以下「宮内ら七名」という。)に対し同日以降停職一ケ月の懲戒処分(以下「第四次懲戒」という。)を通告し、(3)申請人宮内ら七名のうち、申請人小野、北沢に対しては九月二一日発信、申請人鈴木、大野に対しては同月二四日発信の各通告書をもつて、第四次懲戒の終結を通告し、(4)申請人宮内、石川、弦巻に対しては一〇月三日懲戒解雇を通告した。

三、三恵合併前に制定された会社の就業規則(以下「旧就規」という。)には、その五九条において「懲戒及び懲戒の種類」の見出しのもとに懲戒処分として、譴責、減給、乗務停止、出勤停止、懲戒解雇の五種類を規定し、出勤停止については「始末書をとり七日間以内出勤を停止しその期間中の賃金を支給しない」旨を定めているが、停職についてはなんら規定するところがない。

四、賃金は、前月二一日から当月二〇日までの分(以下「当月分」という。)を毎月二八日に支払う定めであるところ、会社は、前記出勤停止及び停職期間中の賃金は支払義務がないものとして支払を拒んでいたが、本件申請後申請人らに対し紛争解決のため、右期間中を含めた九月分までの賃金として、別表B欄記載の金額をそれぞれ支払い、申請人らはこれを七月分以降の賃金の内払いとして受領した。

五、なお、申請人らは、三恵に在職中昭和三九年年末手当の支給を受けるに際し、三恵より組合員各自に対する賃付名義で年末手当から源泉徴収される所得税相当額の交付を受けており、組合側では右金員は返済義務がないものと了解していたところ、会社は申請人ら組合員の意に反して六月分賃金から右金額を差引控除した。また、昭和四〇年度夏季手当については、組合との間に妥結を見ないまま、申請人ら組合員に対してはなお支払がなされていない。

第三、当裁判所の判断

一、疎明によれば、次の事実が一応認められる。

1  第一次ないし第四次懲戒の処分事由として、会社の処分通知書、告示に掲げるところは、次のとおりである。

(1) 第一次懲戒 申請人らは組合幹部として欺瞞、煽動を事とし、とくに六月四日夜以降無通告ストライキを指導したので、就業規則六八条七、一〇号(「項」とあるのは「号」の誤記と認められる。以下同じ。)六九条四号、七〇条一〇、二四、二五号により処分する。なお、処分期間中会社構内への立入を禁ずる。

(2) 第二次懲戒 申請人らの第一次懲戒以後の行動は、なんら反省するところがない。

(3) 第三次懲戒 申請人らは出勤停止処分により会社構内立入を禁ぜられているにも拘らず、しばしば社内に立入り善良な従業員の意に反して労使間の話合を妨げ、かつ、組合の名をもつて虚偽の内容の印刷物を配布して著しく会社の信用、役員の名誉を毀損し、会社の業務運営を阻害したので、さらに就業規則一四条二号、二九条八号、六二条、六三条、六九条七号により処分する。

(4) 第四次懲戒 申請人宮内ら七名は、第三次懲戒以降においてさらに懲戒解雇相当の違法行為があつたので、就業規則七〇条五、一〇、一四、二六、二七号、五九条により処分する。

2  会社には、六月一四日の日付を付した就業規則(以下「新就規」という。)があらたに制定されているけれども、右規則は七月一九日第三次懲戒当時にはまだ所轄労働基準監督署長への届出もなされておらず、八月二六日各営業所に備付けられるまでは従業員らにおいて新就規の制定及びその内容を了知し得る状態になかつた。しかして、八月二六日各営業所に備付けられた新就規の内容は、懲戒処分の種類を定める前記五九条中に五号として「停職=懲戒解雇に相当する行為があつた者監察期間役職並びに出勤停止として謹慎せしむ。期間中賃金は支給しない」旨の字句が付加されているほかは、全文殆んど旧就規と同じである。

二  1 第一ないし第三次懲戒の当時申請人ら従業員に対しては、新就規の内容はもとよりそれが制定された事実さえ周知されていなかつたのであるから、会社は右懲戒の根拠として新就規の有効を主張しこれを適用し得べき限りでないことは、多言を要しない。

ところで、当時の旧就規には、懲戒処分たる「出勤停止」につき期間を七日間以内と明記し、また懲戒の種類として「停職」を認めた規定はない。一般に就業規則の懲戒処分に関する規定は、使用者の恣意的な懲戒権行使から労働者を保護する趣旨のものであり、右規定に反してなされた懲戒処分は原則として無効と解すべきところ、第一次懲戒は期間を確定せず、懲戒委員会の議決がある迄、第二次懲戒はさらに引き続いて旧就規所定の期間を超えて、各出勤停止処分に付したものであり、第三次懲戒は懲戒の種類として旧就規になんら定めのない停職処分に付したものであつて、右懲戒権の行使が旧就規の懲戒規定に牴触することは明らかである。旧就規中の他の諸規定その他の疎明資料を検討しても、これを正当視できる特段の事情は認められないから、第一次懲戒中旧就規所定の七日の期間を超えて出勤停止を命じた部分及び第二次第三次懲戒は、爾余の点を審究するまでもなく、いずれも無効のものといわなければならない。

2 第四次懲戒は、一応前述の新就規五九条五号を根拠としたものと認められるけれども、以下述べる理由により同じく無効というべきである。

すなわち、(1)新就規は懲戒処分の一種として新たに「停職」を付加規定した点において旧就規と異なるにすぎないものであるところ、右改正(新就規の周知)は、本件仮処分審尋中申請人らにより第三次までの懲戒処分が旧就規上根拠を欠くものとして争われている段階において、しかも第四次懲戒の数日前に至つてなされたものである。(2)会社は、第四次懲戒の処分理由につき、「懲戒解雇相当の違法行為」があつたとして前述就業規則七〇条各号(懲戒解雇該当条項。新、旧同文)を抽象的に挙示するのみで、それ以上の具体的事由については、これを申請人らに告げた事実も認められず、本件審尋においてもその主張がない。(3)もつとも、疎明によれば第三次懲戒以後申請人らが会社の意に反して会社構内に立入り、集会、演説、文書配布等の組合活動を行なつたことが窺われ、前示会社の挙示する就業規則七〇条各号の字句(五「屡々懲戒をうけたのにもかかわらず尚悔悟の見込がないとき」、一〇、「他人に対して危害を加え又は故意にその業務を妨げたとき」、一四、「職務上の指示命令に不当に反抗して事業場の秩序を紊したとき」、二六、「会社施設内で許可なく掲示、集会、演説、放送等をなし又は会社の文書掲示物等を故意に破棄、隠匿等したとき」、二七、「その他前各号に準ずる行為のあつたとき」)と対比すると、会社の第四次懲戒は、申請人らの右所為をその理由とするものと推察することも、あながち不可能ではない(但し、新就規周知以前の言動を停職処分の対象とすることは、そのこと自体不当である。)(4)なお、新就規は「停職」の期間につき「監察期間」と定めるのみで、監察の基準、機関、手続等についてなんら規定するところがないので停職期間の恣意的な延長に対する保障に欠け、また、同一所為(「懲戒解雇に相当する行為」)に対し上記のような無期限に等しい「停職」と「懲戒解雇」の二種の懲戒を重ねて科するならば、いわゆる二重の危険の批判を招く余地もあるべく、いずれにせよ新就規の「停職」の規定は、その内容において明確妥当なものとはいい難い。

叙上の諸点に前判示の紛争経緯を考え合わせると、会社の第四次懲戒の真の意図は、第一ないし第三次懲戒を固執維持しこれに対する申請人らの理由ある反対活動を抑圧するにあり、会社において申請人らのうちとくに強硬分子と目する宮内ら七名に対し上記活動の一端をとらえて右懲戒に及んだものであつて、新就規の制定も専ら第一ないし第三次懲戒の不当性を糊塗し第四次懲戒を形式上正当化する目的に出たものと推断するのが相当である。かような意図に出た第四次懲戒は、懲戒権の乱用的行使というべきである。

三、以上のとおりであるから、申請人らが第一ないし第四次懲戒の各該当期間中就労しなかつたのは会社の責に帰すべき事由によるものというべきであつて、申請人らは、会社に対し右期間中の賃金の支払を求める権利がある。

右賃金の額は、前記処分がなければ得られたと推測される賃金相当額であるが疎明によれば、会社においては、乗務員の賃金中、月間(賃金計算期間)の水揚総額を基礎とする累進制歩合給が相当な比重を占めていることが認められるので、上記金額推算のための資料として最近三ケ月分の賃金収入額を算出するに当り、欠勤が異例に多い月はこれを除外して考えるのが相当である。疎明資料により、五月から遡及した直近三ケ月間(但し、叙上の見地に従い、組合活動、傷病等の理由で異例に欠勤の多い月、すなわち、申請人宮内、山田については五月、石川については四、五月、田丸、滝沢については三ないし五月、小野については三月を除外した直近三ケ月間)の申請人らの賃金収入額を計算すると、別表A欄記載のとおりである。しかして、七、八、九の三ケ月分(賃金計算期間六月二一日から九月二〇日まで)として、もし本件懲戒処分がなされなかつたならば申請人らが得たであろう賃金収入の額は、特段の反証のない本件において、右A欄記載の三ケ月分の賃金収入額に見合う金額と推認されるところ、申請人らはその間の賃金として別表B欄の金額を控除した金額につき、申請人らは七、八、九月分の賃金の未払残金として支払を求める権利があり、その額は別表C欄記載のとおりである。申請人宮内、石川、弦巻は、以上のほか九月二一日から一〇月三日解雇されるまでの賃金として別表D欄記載の金額の支払を求めるところ、右金額は別表A欄記載の金額を日割計算した金額の範囲内であるから、その間懲戒処分がなければ得べかりし賃金相当額としてその支払を求める権利があり、これを加算した金額は別表E欄記載のとおりである。

四、疎明及び争のない事実によれば、申請人らは、会社から支払われる賃金によつて生計を維持している労働者であること、六月分賃金は会社による前記一部控除(第二の五)の結果、申請人らのうち最高額の支払を受けた者で一九、三一五円に止まり、また申請人らは非組合員に支給された平均三六、〇〇〇円を超える前記夏季手当(第二の五)の支払も受けていないことが認められ、以上の事実に、疎明資料に顕われた申請人らの家族関係、健康状態等を総合すれば、前認定の未払賃金の支払を受けられないことにより申請人らの生活は危殆に瀕するものと認められる。

五、よつて、申請人らの本件金員(宮内、石川、弦巻は別表E欄記載の金額鈴木、大野、山田、小野、北沢、滝沢は別表C欄記載の金額、諏訪、水落、田丸は別表O欄の金額の範囲内の主文掲記の請求金額)の仮払を求める申請は理由があるから、保証を立てさせないでこれを認容し、申請費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 橘喬 高山晨 田中康之)

(別表省略)

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